金髪にブルーの目を持った少女≪十月四日≫ -爾-美味そうにビールで喉を潤している毛唐共を横目で睨みながら、荷物をバスに積み込んだ。 助手が乗客の人数を調べると、バスはゆっくりと滑り出した。 建物の中庭から外へ出ると、ここまで正面に見据えて登ってきた、万年雪をたくわえた山がすぐ目の前に見えた。 黒い地肌を見せている丘陵地帯が、なだらかに何処までも続いていて、山裾を見るとここまで登ってきた白い一本の道が、細く長く延びているのが見える。 良く見ると、山羊が食料とするわずかな草がたなびいている。 バスはまるでスキーでもするように、反対側の山の麓に向かって滑っていく。 左手を見ると、一㌔にも及ぼうかと思えるほど、大型トラックが入国手続きを待っている。 待機している大型トラックの最後尾まで来ると、山に囲まれた盆地が広がっていて、細い一本の道は盆地の底に向かって延びているようだ。 何か前方に居るのだろうか、バスの運転手がしきりに警笛を鳴らしながら走っている。 窓から頭を出して、前方を見ると、10歳にも満たないと思われる2人の子供が、一頭の駱駝に乗って、一生懸命道路を横断しようとしている所だった。 俺 「警笛なんか鳴らすんじゃないよ!止まってやれよ!」 後ろを振り返ると、さっきまで大きな姿を見せていた万年雪を戴いた山は、いつの間にか後方に小さく見えるまでになっていた。 バスはかなりのスピードで飛ばしているのだろう。 下まで滑り降りると、バスは小さな街に入った。 周りには、土で固められている四角い家が建ち並んでいるのが見える。 俺 「ちょっと・・・違うかな?」 建物の窓枠が今までとは違って見えた。 それこそ、色とりどりの原色が窓の枠を飾っているのである。 不自然なような、自然なような、不思議な光景が目の前に現れた。 そのうちの一軒のドアが開いて、中からスカートをはいた小さな女の子が現れた。 顔を良く見ると、アフガンのパシュトゥ-系人種の顔と良く似ている。 ペルシャ系の人種でもあるようだ。 ヨーロッパとインドを境目らしく、混血のような不思議な顔に出くわした。 ここから違うのだ。 人種が違ってくるのだ。 アジアからネパールへ入るときの感動と、同じ感動が、イランからトルコへ入るとき感じる事が出来た。 金髪の髪にブルーの目、小麦色の肌。 ここからが、人種としてヨーロッパに近いのかも知れない。 ハイウエーの近くだけ建物が点在する、小さな貧しい町をあっと言う間に通り過ぎていく。 陽ざしが厳しく、ポプラだろうか、背の高い木が道にそって、延々と立ち並んでいる。 のんびりとした田園風景が続く。 そんな光景が、すぐバスの後方へと追いやられていく。 今までとはちょっと違った山が、前方に見えてきた。 山の頂きが尖ってなく、台地のように平たくなっているのだ。 まるで左右の山が、今までくっ付いていたかのように・・・・。 まだ風化もそれほど進んでいなくて、大昔の大地が突然現れたかのような、男性的な自然の中にバスは吸い込まれていった。 * ハイウエーの右下を流れる川。 かなりの水量をたたえて流れているのが分る。 その川に沿って、目的地である”エルズラム”まで、後300㎞と言う道が右に左に折れながら続いている。 太陽の陽ざしが、バスの正面から差し込んでくる。 夕日に向かって、バスが走る。 山といい、川といい、そして美しい夕日と言い、大自然の中で夜を迎えようとしている。 * 食事にも少しずつ変化が現れ始めた。 テヘランまでは、パサパサのライスに、羊の肉ぐらいしか適当な食事が見つからなくて、ウンザリしていたものだが、国境に近い村で小休止した時取った昼食は、少しばかり様子が違っていたのである。 何処にでもあるような食堂に入ると、薄暗い部屋に八つのテーブルとイスが並んでいた。 その一つに腰掛けると、ナイフとフォーク、そしてフランスパンを小さく切ったパンが運ばれてきた。 そして、注文。 言葉の分からない旅人の我々に都合の良いことに、注文する料理がわからなければ、部屋の奥へ行くと、何種類もの作り置きされた料理を、自分の目で見て自分で気に入った料理を皿に盛り、テーブルまで運ぶのだ。 もちろん、前もって作っているのだから、日本の食堂のように熱い料理と言うわけにはいかない。 しかし、猫舌の俺にとっては、そんなことは大したことではなく、気に入った食べ物を食える喜びを今、手にしているのだ。 こう言った食堂の形態は、ギリシャに入っても同じだった。 食堂の奥まででは飽き足らず、台所まで入っていって、作られた料理を確認して、この日はジャガイモ・豆・茄子などを煮た料理と、肉を皿に盛りパンに合わせて腹を満たした。 ちょっと、日本的な煮物に似ているが、オリーブの油がどの料理にもたっぷり皿に浮いているのには、さすがに参ってしまった。 それでも、もっと酷いところを旅してきたせいか、慣れるまでにそれほど時間を必要としなかった。 久しぶりに、食事らしい食事にありつけて、満足な一日だった。 * バスは、相変わらず、大自然の中、夕日を追いかけて走る。 次の街にバスが入った。 あまり使われていないのか、レールが草に埋もれている。 馬車に乗った人々が、職場からの帰り道を急いでいる。 もうとっくに沈んでいるはずの夕日が、なかなか姿を隠そうとしない。 沈んでは行っているのだろうが、その夕日をバスが追いかけているもんだから、いつまで経っても沈めないのかも知れない。 夕日にとっては、厄介なバスだ。 夕日、今までの眩しいばかりの陽射しはもう消えてしまい、朱色に塗りこめられた作り物の太陽のように、くっきりと丸い輪郭を見せている。 どれくらいの時間、そうした太陽を見てバスは走っただろうか。 薄っすらと、外が見えていた窓ガラスに、自分の顔が映し出されるようになる。 空には、朱色に塗られた太陽に変わって、空いっぱいに散りばめられた★星が、満天に輝き初めていた。 エルズラムの街は、もうすぐのはずだ。 目的地のギリシャまで、後一国を通過するのみとなってしまった。 駆け足で駆け抜けようとしている。 四国・大坂・沖縄・石垣島・台湾・香港・タイ・ネパール・インド・パキスタン・アフガニスタン・イランそして、トルコ。 9番目の国になる。 バスのフロントガラスに、星屑のような点在した灯りが、ポツンポツンと見えるようになってきた。 山の斜面に建物が建っていて、その明かりが見えているのだろう。 どうやら、エルズラムの街のようだ。 時計を見る。 期待通り、我が愛用の懐中時計は、五時を指したまま、仕事を休んでしまっている。 街に入ると、七階建ての建物が見えてきた。 団地だろうか。 同じような建物がいくつも目に飛び込んでくる。 この建物群を見る限り、かなり大きな都市であるのが分る。 ジャンル別一覧
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